介護・障がい福祉事業の合併
事業のみを譲り受けることとの違い
吸収合併
介護事業や障がい福祉サービス事業を営む小規模会社を、譲り受ける方法として、「会社の事業のみを譲り受ける方法」と、「他の会社を吸収合併する方法」とが考えられます。
「会社の事業のみを譲り受ける方法」では、譲り渡す側の会社(法人)は存続します。

本稿では、事業のみを譲り受ける方法ではなく、吸収合併と呼ばれる方法によって法人全体を譲り受ける手続きの、特徴や注意点などをご紹介します。

ポイント1
許認可(指定)が簡易
「吸収合併する方法」では、引き継ぐ会社(新法人)での、新規指定の手続きが簡易な方法で行えることとされています。(介護保険最新情報vol.862)
提出すべき書類については、旧法人が運営する事業所が指定を受けた際に提出している内容から変更があった部分についてのみ届け出ることで足ります。
同時に事業所名や人員などを変更する場合
合併と同時に、事業所名や主要な人員などを変更する場合は、それに伴う変更も併せて届けることになります。
ポイント2
利用者との再契約が不要
「吸収合併する方法」では、旧法人で契約していた利用者について、引き継ぐ会社(新法人)での利用者との再契約手続きが不要となります。
また、ケアプランの再作成も不要となります。
個別の同意が必要な場合
ただし、旧法人と、新法人とで、加算状況や食費などが異なる場合には、個別にその同意書が必要となります。
ポイント3
従業者との再契約は…
「吸収合併する方法」では、旧法人で雇用されていた従業者について、引き継ぐ会社(新法人)において、従前の雇用条件で雇用を継続する場合には、再雇用契約手続きが不要となります。
ただし、この状態では、引き継ぐ会社(新法人)において、2つの雇用条件が併存することになり複雑です。そこで、従業者との契約については、事前にきちんと説明するなど理解を得た上で、新法人での雇用条件に一本化するなどの検討が必要です。
従業者の同意書
現実的には、雇用条件が変更となることが多いので、事前に全従業員の同意を取るなどの対応が大切です。
ポイント4(合併対価)
合併代金は、旧法人の株主へ支払う
小さな会社間の「吸収合併」では、新法人から支払われる合併代金は、旧法人の株主に対して金銭にて支払うことになるでしょう。
そのため、旧法人の株主が受ける合併代金の額が、旧法人の資産価値を超えていた場合などには、旧法人の株主に対して配当所得等の税金がかかることになります。
旧法人の資産価値
旧法人の資産価値は、簡単には、旧法人が保有する現金や預貯金、不動産等の資産から、借金などの負債を引いた金額です。
吸収合併の流れ
①まずは合意の形成
当事者の会社間で以下のようなことを準備、決定する。
- 消滅法人の資産価値や、収益の把握。
- 合併代金の検討。
- 従業者への処遇の検討。
- 合併の時期(許認可のスケジュール)。
- 補助金の有無。
- 過去の書類不備や報酬返還リスクの把握。など
②合併契約書の作成
当事者の会社間で合意された内容によって、契約書を作成する。
その他の複雑な手続き
契約書が出来上がった後も、会社法にもとづく複雑な手続きが続き、最終的には、登記申請まで行うことになりますが、その辺りはぜひ専門家にご相談頂ければと思います。
本稿では、吸収合併を中心に記載しましたが、実際は、合併による旧法人の内在リスク(書類不備、報酬返還など)の包括的引受けを避けるため、個別事業のみの譲受(買取)による方法を選択することも多いと思います。
その場合は特徴1,2,3のような特例は適用されませんが、小さな規模では各手続き負担はそれほどなく、むしろ柔軟的に引き継ぐ内容を決定できる等のメリットもあります。